相続税の申告期限までに必ず実行しておきたいのが、お父さんの遺産のうち、どの財産は誰が相続するかを決めてしまう遺産分割の手続きです。実際の手続きとしては遺産分割協議書の作成であり、遺言書の執行です。この際、どの相続人もそして税理士さんも相続財産の相続税評価を算出して、法定相続分等を考慮に入れながら分割案をまとめられます。
しかしながら私の場合は、相続税評価のほかに固定資産税・都市計画税、そしてその財産を運用して得られる年間所得を必ず考慮に入れた資産目録を作成して、相続人の皆さんに説明する方法を採っております。相続が発生するまでは相続税対策に最重点をおいてアドバイスをしておりますが、相続が発生してしまうと、相続後の各相続人の皆さんの資金繰りと生活費の捻出に毎年負担となるであろう、固定資産税と所得税の対策に重点が大転回してしまうのです。
ここにその一例を紹介しておきましょう。
■相続財産明細書(円満なる遺産分割協議のために)
記
号 |
種類 |
建物物件
所在地 |
用途 |
面積
(平方メートル) |
相続税
評価額
(万円) |
固定資産税
都市計画税(円)
|
年間所得
(円) |
相続する人 |
A |
土地 |
○○町1丁目126番地 |
自宅 |
233 |
3,420 |
184,200 |
0 |
|
B |
建物 |
同上
|
自宅 |
140 |
162 |
36,400 |
|
|
C |
土地 |
○○町2丁目34番地 |
田 |
2,000 |
18,000 |
18,000 |
300,000 |
|
D |
土地 |
同上35番地
|
田 |
1,500 |
13,500 |
13.,500 |
220,000 |
|
E |
土地 |
○○町2丁目105番地 |
アパート1 |
620 |
5,270 |
237,100 |
850,000 |
|
F |
建物 |
同上
|
アパート1 |
330 |
1,850 |
449,200 |
|
|
G |
土地 |
○○町3丁目16番地 |
マンション1 |
1,260 |
10,710 |
418,600 |
△3,660,000 |
|
H |
建物 |
同上
|
マンション1 |
982 |
8,250 |
2,003,500 |
|
|
I |
土地 |
○○町3丁目18番地 |
アパート2 |
500 |
4,250 |
162,500 |
3,800,000 |
|
J |
建物 |
同上
|
アパート2 |
320 |
240 |
58,200 |
|
|
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合計 |
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(86,652) |
(4,781,200) |
(3,310,000) |
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上記の表で、E、Fのアパート1とG、Hのマンションは新築後の経過年数も浅く、まだ多額の借入金が残っており、当分所得は多く生じないでしょうが、I、Jのアパート2は借入金が無いため、年間所得は3,800,000円も計上されています。アパートやマンションを相続する人には、この物件に担保が設定されている借入金を承継していただかねばなりません。
●収入のない人の場合
収入の全く無い人が自宅のみを相続しても毎年の固定資産税が納付できませんので、別途に預金を相続するか、他の人に扶養してもらうことが条件となりましょう。
●給与所得者の場合
相続人である長男が現在50才位で会社や役所に勤務され、相当高額な給与所得を得ていらっしゃるとしたら、G、Hのマンションでは所得がマイナスですから、これを相続されると翌年からの所得税の確定申告では損益通算をして所得税が還付されたり、住民税を軽減することが期待できます。
●相続税を延納する場合
相続税を延納しようと考えている人は、I、Jのアパート○2のような借入金が無く、手取り収入の大きな収益物件を相続されると好都合でしょう。
●専業主婦の場合
他家に嫁いで目下、専業主婦の長女がE,Fのアパート1を相続したとするとどうなるでしょうか?年間所得が850,000円生じます。すると、現在はご主人の扶養家族として扱われていても、年間所得が38万円を超えると配偶者控除は受けられなくなりますので、ご主人の税負担がアップしてしまいます。また、ご主人の会社の内規により、家族手当が減額されたり、健康保険の扶養家族から除外されてしまう場合も起こるでしょう。そこで、長女はどの財産を相続するべきか、相続税以外の税金にも配慮して遺産分割協議に臨まねばなりません。
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